私は実の父親から性的虐待を受けて育ちました。
3歳頃から中学生まで、お風呂場で父親から性虐待を受けていました。そのことを思い出すと、かなり回復したと感じている今でも、動悸がして冷や汗が出て、とても不安な気持ちになります。自動的に過去の記憶の中にからだが引き戻されてしまうかのようです。
この被害のために、私の人生の前半は費やされました。
混乱と不調、不安定。長い間働くことができず、自分を責めて、何度も自殺を図り精神科入院するという、大変なときを過ごしました。
その性虐待の被害とその後の回復の過程を告白した、私の本『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)を、読んでくださった方の感想の中で、とても多いのが「自分のことが書いてあるようだった」というものです。
時代や状況が違っても、まるで自分のことが書いてあるようだったと、言われます。
声をあげられなくても(あげていなくても)、性虐待の被害に遭われた方は、本当にたくさんいらっしゃいます。私にメッセージをくださった方の中には、10代の方からご高齢の方まで、日本全国の方がいらっしゃいました。私の本を読んで、「数十年前の被害を被害と言っていいんだと思えた」という方もいらっしゃいました。
この性虐待という被害には、当事者さえ、被害と言っていいのか、家族に迷惑がかかるのでは、など、さまざまな理由から、「なかったこと」にせざるを得ない、そうしないと生きてはいけないような事情があるのです。
ですから、声を上げたサバイバーの人たちや、統計にあらわれた数字というのは、本当に氷山の一角であり、実際に被害に遭われた方は、にわかに信じがたいかもしれませんが、ものすごい数がいます。多くの方がトラウマに苦しみ、自分を責めて、自分の人生を生きられないのです。そういう人たちは、まるでその人に責任があるような言われ方で、さらに責められてしまうことさえあります。
先日、大変残念な判決が出ました。
まずは当事者の方が少しでもお元気で、少しでもおだやかな時間が持てているように祈るばかりです。どれほど大変なことだったでしょうか。どれほど心えぐられて、エネルギーのいることだったでしょうか。本当にどうかがんばらないで、ゆっくり過ごしていただきたいと思います。
その判決に関連した、こちらの記事を読んで、私も「まるで私の思いが書いてあるようだ」と思いました。
▷裁判官に知ってほしい 私が父の性暴力に抵抗できなかった理由
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190426/k10011897421000.html
私も子どもの頃、「お父さんとお母さんに嫌われたら、雨に濡れてお腹が空いて死んでしまう」と強烈に思っていました。
言葉は多少違いますが、この取材を受けた方も同じようにお話なさっていて、被害の状況が違っても、同じように感じるのだと、私もまるで自分のことを語ってもらっているように感じました。
圧倒的な力(経済、情報、腕力、語彙、経験…あらゆる力です)の差がある大人から、子どもが受ける性虐待。
同意などということが、あり得るでしょうか。
抵抗することなど可能でしょうか。
この度の判決、当事者のひとりとして、本当に強い怒りを感じています。
法律とは、いったい何のためにあるのでしょう。
私は専門家ではありませんが、この判決が今後どのような影響を社会にもたらすかと思うと、暗澹たる気持ちです。
性虐待の被害の事実を、どうか知ってください。
「魂の殺人」としか表現のしようがないような、当事者の苦しみをどうか理解してほしい。
今後、私のような思いをする子どもがいなくなるように、力を尽くしたいと思うと同時に、今を生きる社会の大人として、大変情けなくもなりました。
社会は変わらないんじゃないか、否認され続けてなかったことにされ続けて、踏みつけられる命が増えるいっぽうなのではないかと、絶望的な気持ちになる日もあります。
でも、希望もあります。
▷朝日新聞
私のブログを読んでくださっている方の中には、今苦しさの渦中にいる人もいらっしゃると思います。
でも、絶対に幸せになれる、生きる力を取り戻せる、この人生の中で幸せになっていいことを、どうか忘れないでください。
法律で明確に近親姦を禁止してください。
暴行脅迫要件をなくしてください。
これ以上、尊厳が踏みつけられるのはいやです。
加害者が亡くなっても、サバイバーの被害は続いています。
社会全体が性被害から目を背けずに、一日も早く対応をしてほしいと、心から願っています。